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ナーセルの居場所を知ったラティーファは普通に「あら、そう」と普段と変わらぬ様子で頷き厩舎へ歩いて行く。
ザイードはそんな母の背を目で追うと愛美の元へ駆け寄った。
「……あ、…ザイードっ」
ゼイゼイ息を切らしながら、愛美はザイードに笑顔を向ける。
自分を見上げる愛美のその表情を不思議に思いながらザイードは直ぐに馬を降りていた。
「どうしたっ…母に何か言われたかっ…」
転ばぬとも限らぬ坂を慌てて歩く愛美の肩を抱き止めて、ザイードは愛美を心配そうに覗き込む。
「ええ…あのっ…言われたって言うか…」
「……っ…叱られたのだな…っ…」
「え?」
愛美は思いきり間の抜けた表情でザイードを見つめた。
とても必死なザイードに愛美は疑問顔を向けている。
ザイードはまるで責めるように問い詰めた。
「何を言われた?…ああ、違う。そうじゃないな…大丈夫だ、あまり気にするな…言葉は強いが後は引かない母だ……っ…怒っていても直ぐに忘れる。あまり気に病むな…」
「………」
しどろもどろになってそう語る。身振り手振りで愛美を元気付けようと必死なザイードのその姿に愛美の目は点になる。
そして──
「……ふっ…」
愛美は思いきり顔をニヤケさせ吹き出していた。
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