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厩舎の方からは祖父のナーセルから携帯電話を奪ったであろう母、ラティーファの早速怒鳴る声が聞こえてくる。
ザイードは笑った。
「この件は暫く母に委ねて置こうか……」
若輩な経験不足の王子より、きっと母の方が説得力があるに違いない。
ザイードはそう考えながら馬の手綱を牽くと、愛美の手を握る。
愛美は隣に寄り添いそんなザイードを見上げた。
目の前に広がる景色を見つめるその表情は、やはり親子なのだろうか。先ほどのラティーファの少し悲し気な表情と重なって見える。
ザイードは澄んだ空気を静かに吸い込んだ。
「母が口にしなければマナミにも同じ思いをさせるところだった……」
笑みを浮かべながらも反省したようにそう口にする。
そして……幼き頃に味わった思いを自分の我が子にもさせるところだった……。
古い歴史には受け継いでもらいたいものもあれば、断ち切らなければならないものもある──
変えるべきだ──
そのために王になると決めたのだから。
マナミと歩きながらザイードは前を見据える──。
強い目差し
悠然たる歩き
覚悟を決めた意志の中に厳しさが垣間見える──だが、愛美の手を握るザイードのそこだけはとても優しかった……。
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