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「あ、父さん!着いたみたいよ」
額に手傘を当てて遠くを眺める。
細い道をのんびりとこちらへ向かってくる馬車の荷台に二つの人影を確認すると、ラティーファは外から家の奥にそう呼び掛けていた。
「おお!やっと来たか」
口を大きく開けて家から出てきたザイードの祖父、ナーセルは嬉しそうな笑みを浮かべる。
久し振りに帰ってきた孫息子。遠目に見えるその姿は馬車の荷台で揺られながらどんどんと近付いてくる。
「じゃあ、私はお茶の支度をしてくるわ」
母、ラティーファはその場を父のナーセルに譲り家の奥に入っていった。
停まった馬車の上からザイードは身を乗り出す。
「出迎えしてくれたか!」
「ああ!当たり前だ!」
荷台から下りるとザイードは嬉しそうにナーセルを抱き締めた。
「お前もやっと嫁を取る気になったようだな」
ナーセルはニッと笑うとザイードの後ろにあった馬車の荷台を顎で指す。
ザイードは振り返った。
馬車に乗っていた愛美を見つめ、ザイードはクスリと優しく笑う。
「おいでマナミ」
ザイードは両腕を伸ばした。
地面から少々高さがある分、妊婦の愛美に馬車の乗り降りは危険が伴う。
ザイードに抱き上げられて大地に足を着けると愛美はナーセルに握手を求められていた。
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