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「祖父のナーセルだ。昔はこの村の長を務めていた」
「ああ。今は長男が跡を継いでおる……あなたがマナミさんか。よう来なさった」
ザイードの紹介に付け加え、ナーセルはニッと隙間だらけの歯を見せて笑った。
愛美は思わずその口元に驚いて目を見開いた。
ザイードは勢いよく声を立ててナーセルの肩に腕を置く。
「ははっ!また随分と減ったな? どうやって食事をしてる」
「なあに、心配するな。まだ奥歯が残っとる!」
威張ってふんぞり返るとナーセルはカカカッと空に向かって大笑いしていた。
見るからに明るい元気なお爺さんだ。これでももう90を越えているというから驚きだった。
緊張気味だった愛美の表情もナーセルの気さくさに一気に解れていく。
ナーセルは愛美を見つめ、声を掛けた。
「ザイードの母親が奥で茶の用意をしとる。はよう顔を見せてあげるといい」
「はい、有り難うございます」
手のひらを合わせてお礼を口にする。そんな愛美の仕草を真似て、ナーセルもお辞儀を返した。
「さあ、お前も早く」
ナーセルはザイードの背中を押しながら、家の中を進めていた。
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