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入口に下がる布を捲り、中に入るザイードの後ろを愛美は付いていく。
家に入った二人をラティーファは“おかえり”と優しく笑って迎えていた。
「マナミも疲れたでしょう。そこに休んで」
「え…っ…あ、はいっ…」
会って直ぐに名前を呼ばれ、愛美は驚きながらも慌ててすすめられた場所に腰を下ろした。
床に絨毯だけでは身重の愛美には少々辛い。そこを考慮してくれたのだろうか。
柔らかな綿入りのクッションと、身体を寄り掛からせて楽になれるよう、後ろには大きな藁の塊が置いてある。
「楽にして座って。今、お茶を持ってくるから」
座ったはいいが少し落ち着かない様子の愛美に笑い掛け、ラティーファは用意していたお茶を取りにいった。
「あ、あたしも何かお手伝いをっ…」
「先ずはゆっくり休め」
立ち上がろうとする愛美を横に座ったザイードが止めていた。
ゆっくり休めと言われても何だか気が気じゃない。
気遣いの出来ない嫁だとか思われたらどうしようか。何かを言われる前に動いたほうがいいのではないだろうか。
ザイードの話では働き者だったが故に、何もすることがなかった城に嫌気が差して故郷に帰った母だと聞いていた。
あれこれと考えて背もたれにもたれる余裕のない愛美の前に、ラティーファはお茶を置いた。
「今日は何もしない日よ。だから気にしないでゆっくり休んでちょうだい」
笑いながらそう言われた。
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