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そんな自分を見て、さも楽しそうに笑う母と祖父の顔も鮮明に憶えている。
その様子は幼いザイードからしてみれば、とてもショックな出来事であった。
薬もないこの村で唯一の万能薬として遥か昔から飲まれていたお茶。
それは朝晩と老若男女に拘わらず、必ず飲用されていた薬膳茶だった。
愛美はくすりと笑い、目を細める。
「小さかったザイードはどんなだったのかもっと知りたい」
「………」
とても小さな呟きだった。そのささやかな想いを口にした愛美にザイードは照れを浮かべる。それを誤魔化すように鼻先を指で掻いていた。
産まれたばかりのザイード。歩き始めたザイード。そして少年から大人へと、ザイードはどう成長していったのだろうか。
愛美は想像を膨らませながらザイードを見つめる。
ザイードは肩をすくめて愛美の呟きに答えた。
「……聞いても話す程のことはそうない」
「そう?小さな頃はどんな遊びをしたとか、」
愛美はザイードを覗き込む。ザイードは昔の記憶を探るように少し眉を寄せていた。
離宮で母と離れての生活が始まると同時に様々な制約が付きまとった。
責任ある立場故か、使用人やお目付け役の監視、小言。実に窮屈でならなかった生活の中で、兄であるアサドとの時間が唯一楽しかった事を思い出していた。
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