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1 だから
今日は、なんだか、元気が無いなと思った。
「具合でも悪いのかな。」と、ちょっと心配した。
でも、僕の顔を見ると、大きく手を振りながら走ってくる。なんだいつも通りじゃないか。
「待った。」
にこにこ笑顔で僕を追い越していく。
あわてて、後を追いながら、
「どこに行くの。」と、聞くと、
「一緒に行きたかったんだ。」
「どこに。」
「すごいんだよ。」
角を曲がりながら、どんどん走っていく。
川沿いの道には、桜並木があって、あと1週間もすれば咲きそうだ。
登は並木の下も通りすぎて、土手を下って細い路地に入っていく。
両側に、大きな木が並んでいるせいで、昼なのに薄暗い。
木漏れ日が時々明るく輝いて、上を見てうっとりしながら進んで行くと、突然目の前が開けた。
「ほら、見て見て。」登が興奮した声で呼んでいる。
「あわー。」
なんだか間の抜けた声が出てしまった。
大きな、そんな言葉では言い表せないくらいとてつもなくでっかい家が、目の前に現れたんだ。
お屋敷。
僕たちは江戸時代にでも、タイムスリップしたんじゃないかと思うような、そんなお屋敷の前に立っていた。
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