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三々五々、出席者は会議室を出ていき、自らの持ち場へと戻り始めた。ウィリアムはまだ部屋に残って着座しているフィリップに近づき、
「ありがとうございます、フィリップ博士」
「ん? いや、なあに」
フィリップは鼻の頭をポリポリと掻きながら徐に立ち上がって応えると、
「軌道エレベーター開発は国際プロジェクトだからね。この一大事業で開発部の主任局長を担っているモリスへのやっかみは耳にするから、ちょっと一言と思って。ビーンストークの連中だって全員が全員、聖人君子の気構えで開発に没頭している訳ではないからさ。この偉業をトップの地位で成しえたいと思っている人間だっている。ただ現時点で失踪の理由の分からないモリスへの誹謗中傷だけは避けたいんだよ」
「そうですね。だけど、すいません。本来なら僕がすぐに否定すべき事をフィリップ博士に言わせて」
「何を言っているんだ、ウィリアム。私が勝手に勇み足でフライングしただけのことさ」
何処か照れくさそうにフィリップは答えた。
〈もし僕が反論したならば感情的になってしまうだけだった〉
だからこそフィリップは敢えて自分よりも先に意見を言ったのだろう、とウィリアムは推し量った。フィリップがそのような気遣いが出来る人間である事をウィリアムは知っている。
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