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ウィリアムが自動販売機にコインを入れようとしたが、モリスはそれを制止して、
「いや、結構。私もこれからすぐにラボに行って、資料をまとめなきゃいかんのだよ。そのための早出でね」
「お疲れ様です」
「いや、君の方こそな。そういえばエレナとは今年中に挙式をあげる予定だったんだっけ?」
「はい。一応は年内を目処に。今の状態じゃ難しい感じですけど」
「そうか。あまり待たせてエレナをやきもきさせるなよ。時に、愛は死より冷酷なものになるからな」
「モリス博士、そんな怖いこと言わないで下さいよ」
「まあ、くれぐれも気をつけたまえ、教授(プロフェッサー)」
モリスは微かに顔を崩し、ウィリアムの肩をポンと叩くと、年相応には見えない、軽快で颯爽とした足取りでその場を去っていった。
「愛は死より冷酷、か」
ウィリアムは独り言を呟くと肩をすくめ、モリスの後ろ姿を眠気眼で見送った。徐々に離れていくその背にウィリアムは身が引き締まる思いにかられた。
尊敬すべき科学者であり、慕うべき父のような存在。
ウィリアム・ロックワードにとってモリス・トンプソン博士は目指すべき人格者であった。
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