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ウィリアムの本職は大学での教授。だが、学会での研究論文である『静止軌道衛星上における宇宙工学的解釈』が斯界に評価され、ISEDOに客員として招聘された。その実、ウィリアム自身はモリスの口添えによって客員の研究員助手としてISEDOに招かれたのであろう、と推し量っていた。だが、どちらにしても好機だった。モリスの近くで働けるということ。それが叶った、と。
兎にも角にも、教授職と研究員助手の二足のワラジを履きながら、国際的宇宙プロジェクトに参加できるという事に、ウィリアムは喜びを感じていた。さらにはモリスと共にその偉業を達成しようとすることに。
だが、半年後モリス・トンプソンは、そんなウィリアムの思いも他所に、忽然と姿を消した。
そして、モリスが失踪してから数日後、一通の手紙をウィリアムは受け取る。
《私は私自身との約束を果たす時がきた。親愛なるウィリアム・ロックワードへ。君こそ我が息子だ》
手紙の本文の内容は、ただそれだけ。
差出人の名前はモリス・トンプソン。
その手紙はソフィア・ロックワード……ウィリアムの母親の三年目の命日が過ぎた頃に届いたものだった。
*
軌道エレベーター。
別称を宇宙エレベーターとも言う。
赤道上空で地球の自転と同じ速度でまわる静止衛星から、地上へケーブルを下げて衛星と地球を行き来する、文字通り宇宙と地球をつなぐエレベーター。一聴するとSF映画の類いの夢物語にも聞こえるが、この発想はすでに十九世紀の終わりには高名な科学者によって紹介されていたので歴史は古い。
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