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「そう、あくまで秘密裏だ。R国などが軌道エレベーターを極秘に開発している、という話は現段階ではスペキュレーションにすぎない」
「それではモリス博士の拉致もナンセンスになってしまうのではないか。推測の域を出ないならば」
「モリス博士の拉致、という事件性を帯びた懸案にするには、あまりにも確証が少なすぎるし」
「うーむ、やはり黙って捜索を待つしかないのか」
「マスコミも騒ぎ出している。そちらの対応に気を削がれて本来の研究に支障が出てはならない。搜索の進展も含めて諸々の問題の早期の解決が急務だ」
「確かに……」
淡々と進むミーティング。片や静寂(しじま)を守るウィリアム。幾人かの出席者はそんなウィリアムの姿をチラチラと一瞥していた。何か自分に意見を求めている。それはウィリアムも察していた。一方で、発言すべき内容は持っていない、とも自らに言い聞かせている。実際にモリスの失踪については何も知らないのだから。
〈だが、発言すべき情報は持っている〉
失踪直後のモリスから送られてきた例の手紙。
〈一応は報告すべきであろうか?〉
ウィリアムは逡巡していた。
その時、
「それとも単に開発局長という重責から逃れるために、モリス博士は仕事をほっぽり出して姿を消してしまったとか」
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