「Love is cruel,Time is ruthless」

9/51
前へ
/51ページ
次へ
 という発言が一部の出席者から漏れた。それを聞いて今まで黙っていたウィリアムはすぐに反論をしようとしたが、 「それこそナンセンスな話だ。馬鹿げている」  語気を多少荒くした一人の研究員の言葉が、ウィリアムの口よりも早く飛び出した。 「フィリップ博士……」  そう呟いてウィリアムが目をやったのが、やはりウィリアムと同様に口をつぐんでいたフィリップ・ベンジャミン博士だった。 「皆さんはモリス博士がそんな無責任な研究者だと本当にお思いか?」  フィリップはモリスとは年相応ではあるが、彼とは対照的に頭頂部の髪が薄く、度の強い黒縁眼鏡を白肌の大きな鼻にかけ、猫背の小柄な体をした風貌。それに裾捲りをしていたのか、白衣の腕周りのシワがひどい。外見からすればモリスのような威厳は感じられない。だが、一見、好々爺の印象すら受けて強面とは程遠いものの、その一言に宿した気概には迫力があった。他の出席者たちもその気迫に押され、 「いや、そんな事はないです」  とバツの悪い笑顔で応じるしかなかった。  結局、議題はほとんど解決しないままミーティングは終わった。とりあえずモリスの仕事の穴埋めは幹部クラスのメンバーで分担して、さらにモリスの安否否状況が判明するのが長引くのならば、暫定的にモリスの開発局長ポストの代理を選定する事に決めた。     
/51ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加