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草刈は冗談のように今の愛美の台詞を受け取ったが、愛美の表情が思いのほか真顔だったので、ゴホン、と一つ咳をして笑みを漏らす事なく、
「だ、大丈夫だよ。石田は大袈裟に考えすぎなんだって」
「でも最近多いでしょ、若者の過労自殺とか。だから心配なのよ。それに俊太郎は大学卒業したら一人暮らし始めたじゃない。健康面や食事の栄養面とかちゃんと管理できているのかな、とか。別に俊太郎の会社って実家から十分通える距離じゃない。わざわざ一人暮らしする必要ないんでしょ?」
「石田は俺の母さんかよ。イイ歳こいた独身男が、いつまでも両親と一緒に暮らしているのはキモいっての、世間体的に。それに俺自身も実家詰めは息苦しいわ」
「でも、俊太郎にはカノジョとか今いなじゃない」
「何でそんな話になるんだよ」
「だって話の取り方によっては一人暮らしして、誰か女の子を引っ張って来る、みたいな感じだったから」
「それこそまるで高島みたいな発想じゃないか。石田は拡大解釈しすぎだよ」
「じゃあ、好きな人ぐらいはいるの?」
「え?」
草刈は一瞬、声を詰まらせた。だが、愛美はその草刈の様子に気づく事はなく、草刈は直ぐに声色を戻して平静を装いつつ、
「べ、別にいないよ。社会人になるとそんな出会いとか多くないし」
「ふうん。そんなものなのかしら」
「そんなもんだよ。それより……」
「うん?」
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