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12 自分をやめると 世界は…
彼は動かなくなった空飛ぶ生き物を眺めていた
きっとこの空飛ぶ生き物も
真っ暗な世界へ行き
暖かい所に行ったのだと
彼は知っていた
その世界が永遠では無いことを
空飛ぶ生き物も
もうすぐ目覚めこの世界へ戻ってくる
それまで待ってみようと思ったのだ
だが
空飛ぶ生き物は目を覚まさなかった
どうして空飛ぶ生き物は目を覚まさない?
少しだけ風が吹いた
空飛ぶ生き物の羽が風で動いた
水溜まりにまた少しだけ波紋がおきた
自分の力で動いた訳ではなく
風によって動かされた
彼にもわかった
同じ動きでも
違いはわかった
何か違和感はあったのだが
それ以上に
彼はうらやましかった
あの暖かい世界にこんなに長く行ける事が
彼は湖を見つめ
決心した
あの世界に行くんだ
この空飛ぶ生き物みたいに
あの暖かい世界に
ずっとずっと
彼はゆっくりと湖へ
入っていく
身体のの力が抜けた
身体が夜空に向いた
心地よかった
だけど真っ暗な世界ではなかった
何かが違う
空飛ぶ生き物は羽をバタバタさせていた
こんなに穏やかではなかった
急に怖くなった
その時
身体に力が入った
すると身体は湖に沈み始めた
慌てて手をバタバタさせた
水が顔に
鼻に口に入ってきた
バシャッバシャッバシャッバシャッ
苦しい苦しい苦しい苦しい
身体が下へ沈んでいく
大きな丸の光で 口から出る泡が見えた
沢山の泡が
どこかで見た光景
自分の奥底の恐ろしい何か
この世界は恐ろしい
行ってはダメな所だ
それでも身体は沈んでいく
水の中から揺れる大きな丸を
掴もうとして手を伸ばした
両手をいっぱい伸ばした
意識が真っ黒になりかけた
タ、ス、ケ、テ、
その時だった
上から物凄い 勢いで
光る何かが現れた
その光る何かは彼の
いっぱいに伸ばした手を掴んだ
確かに掴んだのだ
優しく強いその何かに引っ張られた
気がつくと
彼は水辺に漂っていた
彼はわかった
あの空飛ぶ生き物もきっと苦しかったんだ
苦しくてバタバタしていたんだ
彼は空飛ぶ生き物が心配になり
食べ物を持って
動かなくなった
空飛ぶ生き物の前に行った
そして
救えなかったんだと
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