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「迷惑なんて思っていない」
「それならよかった」
ふわりと柔らかく微笑まれる。それが、鼓動を早くする。
クラウルにとっても、あの時間は穏やかだった。いや、状況としては緊迫していたのだが、気持ちは楽だった。何を言うにも、振る舞うにもそのままの自分でいられたように思う。
「どうやら俺は、貴方の側が落ち着くようです」
視線が外れて、横顔が見える。でもその表情は柔らかなままだ。
「俺も、同じなんだろう」
「奇遇ですね」
「そうだな」
なんて言って、笑ってしまう。
ゼロスが体ごとこちらを向く。穏やかに、真剣に見つめる瞳はとても綺麗だ。真っ直ぐに自らの意志をぶつける、そんな真摯なものだった。
「貴方の側にいたい。面倒になったら放り投げて構わないので、いてもよろしいでしょうか?」
「俺でいいのか?」
「貴方でなければ意味が無い」
「…そうだな」
クラウルもまた、ゼロスでなければ意味がない。友人とも、仲間とも、幼馴染みとも違う距離。
触れるほどに近く、手を伸ばせば引き寄せる事ができる。自分らしくいられる時間を共有できる、そんな相手だ。
自然と、距離が縮んだ。
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