近くにあること(クラウル)

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 挑むような鋭い視線と、ニヤリと笑う口元が鋭くなる。殊勝な顔をしていたのが嘘のようだ。  数日間を一緒に生活していた時はこんな顔をしなかったのに、今はこれだ。どうにも楽しげで、試されているようだ。 「俺は多少、貴方の事が気になります」 「え?」  不意の言葉は心臓に悪い。僅かに鼓動が早くなる。薄茶色の瞳は、案外笑っていない。 「憧れのようなものに触れられるのなら、触れてみたいと思うのが人間の性というものではありませんか?」 「憧れって。確かに入団テストの事はあったが、その後の接点はなかったはずだ。お前がそれほど俺に関心を寄せるような事はあったか?」 「理由がなければいけないなんて、クラウル様は野暮ですね」  呆れたような溜息をつくゼロスは、それでも面白そうにしている。機嫌良く食事と酒を楽しんでいて、クラウルのグラスにもワインを注いでいく。 「理由を問われると困ります。最初はハンカチを返した方がいいのだろうと窺っていましたが、次第にそれとは関係なく貴方を見るようになっていた。案外、笑うと優しい顔になるとか、熱血漢な部分があるとか」 「そんなこと…」 「仲間や友人を大事にしている。ユーミル祭の前は元気がありませんでしたが、その後はむしろ表情がより穏やかになっていた」     
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