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【R18】手探り(クラウル)
ゼロスを連れてきたのは、以前にも連れてきた街中の部屋だった。さすがに暖房もつけていない室内は冷え切っている。
酒でも飲みながら。そう思っていたがこの寒い室内ではそれも考えてしまう。
今から宿舎に戻ろうか。思案していると、ゼロスの方が先に動いて暖炉に火を入れた。
「さすがに冷えますね」
「あぁ」
正直に言って、勢いでここまで連れてきてしまった。だが、本当にいいのか。未だに何かを疑っている。
ゼロスを疑うわけではない。おそらく、自分に魅力を感じないからこその疑いだった。
ラグに腰を下ろし、ベッドに凭れる。爆ぜる暖炉の明かりだけで、室内は暗いままだ。だがこんな寒い日は、揺らめく炎の明かりを見るだけでも温まった気になる。
隣に、ゼロスが座った。手が触れ、腕が触れるような近い距離だった。
「落ち着きますね」
「そうだな」
「屋敷で過ごした時間、俺は不謹慎ですが、嬉しかったです」
不意の言葉に視線を向ければ、ゼロスもこちらを見ていた。ジッと見つめる薄茶色の瞳が、柔らかな光を宿している。
「素の貴方に、触れている時間でした。状況的にそれどころではないし、貴方にとっては迷惑な事だったかもしれませんが」
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