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ただ一つ「それが現実である」というどこから得たかもわからないような力強い確信だけを頼りに、男はこの旅を続けているのだ。
なぜそこに行かなければいけないのか、なぜ現実から逃げ出してまで男はそこへたどり着かなければならないのか。
男にはそれをうまく説明することができない。
だが男の絶対的で唯一の根拠は、自らの魂が発する輝きであり、それが決して理論で説明できるものではないということだけだった。
その証拠に、多くの友人知人が、彼のこの無謀な旅を止めようとした。
「なぜそんなものを探す?」
「夢と現実を履き違えるな」
「そんな愚かなことに、君の人生を捧げるのか?」
「今までの仕事とかはどうするのだ」
仲の良かった人間からそうでもない人間までもが、口を揃えて彼の計画を否定した。
当たり前である、これが留学や自分探しの旅ならまだしも、夢という妄想に似たものを、全てを捨てて探しにゆくのだ。
愚か者以外の言葉が見当たらない。
だが男は、のちの旅人は、彼らのご都合なんぞどうでもいいと思っていた。
平々凡々に生きてきた男にとって、これほどまでに魂が燃え上がり、内側から発せられる光が、輝かしく思えたことはなかったのだ。
その木は、緋色の花びらを咲かせたその木に、男はある種ノスタルジアを感じていた。
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