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特にやりたいわけでもないのに、適当な理由をつけて高い意識を持っているかのように振る舞う自分が、偽物のように思えて、本当に生きがいを見つけた彼らの人生を邪魔しているようで申し訳ないのだ。
そうして徐々に体を蝕む、虚無感。
そういった人間たちが周囲にいたこと、それが旅人を悩ます原因でもあったが、さらにそれに追い打ちをかけるように、彼の旧友も、もう肩を並べて歩けないほど変わってしまっていた。
一人はやりたいこと見つけた。
一人は明るく社交的になった。
一人は才能を発揮した。
変わっていないのは、ナアナアに生きてきた旅人ただ一人であった。
そうして徐々に体を蝕む、劣等感。
現在と過去に絶望した男の目のは、もはや未来などは映らなかった。
酒をいつもより多く煽り、暴飲暴食に明け暮れ、仕事や義務を放棄し、男は死んだように生き始めた。
それでも未だ残る、「社会」への未練。
友達はいたはずだった。
恋人はいたはずだった。
家族はいたはずだった。
だがもう今となっては、そんなものを確かめようがないくらいに、男は弱り切っていた。
だからだろうか、桜の木の夢を見たとき、男は道標を見つけたと思った。
その桜の木が見せたのは、ただ柔らかで暖かな光ではない。
そんなものは、もはや男を救うには、彼に救済を与えるにはあまりにも貧弱であった。
男がその夢から見出したもの。
一つ、それは過去を捨てる決意。
一つ、それは自分に嘘をつかない姿勢。
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