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燃えゆく桜と
ぼんやりとした景色の中、その雄大な桜の木は力強く大地から生えていた。
男が旅を始めるきっかけになって、夢の景色。
旅を始めてから、男はずっと同じ夢を見ていた。
科学的にそんなことが本当に可能なのかが不思議で仕方がないのだが、ともかくこれは主観的事実なので、人の価値観などは死体を燃やして残った灰と同じくらいに無価値であった。
柔らかで暖かな光の中で咲く乱れるその桜を前に、男は自分のちっぽけさを痛々しいほど実感させられる。
だからだろうか、何度その桜に触れたいと願っても、男の足がその場から動くことはなかった。
その木は、丘の上にあって、街と海を見下ろすことができた。
後ろを向けば、丘の下に今まで歩いてきた荒野が広がる。
だからまるで人生の通過点のようなこの木は、きっと終着点ではないのだろう。
風が吹き、桜の花びらが舞い散る。
だが美しいという感情よりも先に、男は何か物足りなさを感じた。
この桜の美しさは、主観的な「感性」なのだろうかと。
我々は桜は美しい花だと教わる。
別れを和やかにし、出会いを晴れやかにするから、祝い事や行事に至極ピッタリだとされている。
そうして散り行く儚さもまた、風情があるとどこかの詩人が言った。
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