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No.5 カズ・フルーチェ
「それで、死体を隠したのは君なんだね?」
年老いた男が私に尋ねてきた。
「いや、だからね。私は彼女の死体を隠した友人をみたっていってるの、私は目撃者だって──って、え?」
なんだこの男は? 何故私に話しかけているのだ? 私は木であり、私の言語は人間には──
男の後ろにいたもう一人の若い男が、一人目の男の肩を叩いた。
「尿検査も陽性反応を示していますし、幻覚をみている可能性がありますよ。とりあえず殺人は別件として置いといて、覚醒剤所持で立件します?」
「うむ」
なに? 覚醒剤所持? それに、私が今いる場所はどう考えても屋内だし、なんと、私には人間のように腕や足も存在するではないか!
──あぁ、そうか分かった。分かったぞ。
私は今人間になった幻覚を見ているんだ。恐らく、彼女の死体から覚醒剤の成分を養分として取り込んでしまったのだろう。
それにしても奇妙なもんだ。視覚のない筈の私が──木である私が幻覚をみるだなんて......
はぁ、“引越し”の方は上手くいってるだろうか?
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