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――年季の入った、ただの遺物ですよ。
――故にこの小僧に見出されたか。成る程、ならば納得もしよう。
着物の裾を払い、言葉とは裏腹なむすりとした顔で、少女はこちらへと近付いてくる。
――久々に人の子が来たと思えば、書斎ばかりにかまけて、ちいとも掃除をせぬものだ。埃臭くて敵わん。
どうやら御立腹のようだった。
「申し訳ない」
――まあ良い。そこなる狼のお陰か、久々に清浄な空気が吸えた。後はお前に文句を言うだけだ。
少女は二本指を立て、僕の方へ突き出す。
――どうにも儂を忘れているようだが、許してやる。ただ、まめに掃除をしろ。後、儂にも社を作れ。小さいもので構わぬ。
それは有無を言わさぬ圧力と、若干の罪悪感で以て承諾された。
満足そうに頷くと、少女は僕の裾を引っ張った。腰をかがめると、小さな掌が頬に触れる。
――頼むぞ、頼之助。
そう言って、袖を振る。微かに甘い線香の匂いがし、気付いた時には影も形もなくなっていた。
――福の神のようですね。
巷では、確かあのような類を“座敷童”と呼ぶのだったか。真神はそれを聞くと、感心したように笑った。
――言い得て妙な。
それからふと思い出したように、呟く。
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