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一つ摘み取る。それから何か置くものはないかと屋敷を探し、結果的に醤油皿しか見つからなかったのでそれに乗せ、祠に供えた。
パンパン、と柏手を叩いて、何を願うでもなく、頭を垂れる。
そんな形だけの呼びかけが届いたのは、夜だった。ふと、物音が耳を打った。それは落ち葉が舞う音でも、枝が風で擦れる音でもなかった。
襖を開け縁側に出た僕の眼に映ったのは、月明りに照らされて光り輝く、四つ足の獣だった。
いや、獣ではなかった。それは見覚えのある神の姿だった。銀の艶めく毛並み、琥珀色の瞳。そして、玲瓏な声が響く。
――…呼ぶ声がするから誰かと思えば。
「ご迷惑でしたか」
――何も報いることは出来ませんよ。
「そんなことを求めてはいないので」
――では、何を?
「言ったでしょう。完成させた暁には、私の作品を見せると」
数拍の間をおいて、彼女はくすりと笑った。
――今にしては変わった人だ、と思っていましたが。
「違うのですか」
――後にも先にも、見たことがありませんよ。
それは光栄だ。襖を大きく広げて、手招きする。
「約束しましたからね」
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