座敷童

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 「あなたは怖がらないので、必要を感じなかっただけです」  成る程、と頷いて、納屋から雑巾にバケツ、箒と塵取りを取り出す。  「では真神様には掃き掃除を」  「ええ、分かりました」  神に掃除をさせる時点で不敬に変わりはないのだが、掃き掃除の方が幾分かはマシだろうと言う判断の割り振りであった。しかし開始から二時間と経たずに、その苦渋の決断は無意味だったことと悟った。先に掃き掃除を終わらせた彼女は、結局雑巾を手に取ったからである。「この住まいが不潔であるよりは善いでしょう」と笑ってくれたが、単に僕が不慣れに過ぎたがための事故であった。流石の僕も反省した。  そうして粗方綺麗になった頃には、すっかり日も傾いていた。  全身を途方もない倦怠感に支配された僕は畳の上に身体を投げ出し、人の形を脱ぎ捨て元に戻った真神は、呆れたように溜め息を吐いた。  ――まめに手入れしないからですよ。  「…身に沁みました。これからは気を付けますとも」  ――よろしい。  その言葉は――大変不躾な感覚で申し訳ないが――母のような慈愛に満ちていた。それを心地良く甘受しつつ大の字で倒れる僕に、  ――そう言えば。  と彼女が呟いた。何かを確かめるように、形の良く、すらりとした鼻先を動かす。     
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