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「あ、違うよ。
責めてるとかそんなんじゃない。
伊佐さんさえ良ければ、いつまでだってここに居ても構わないんだからね。
ほ、ほら、お茶を入れるから。
今年の桜は綺麗だね。山が桜色に染まって見える。」
「本当に綺麗ですね。
私は昔のことは覚えていないけれど、でもおせいさんと見るこの桜が、今までで一番綺麗に見えていると思います。」
「そうだね。
私も今まで見た桜の中で、伊佐さんと見る今年が一番綺麗に見える。」
「…。」
「伊佐さん?」
「おせいさん。
私はこのまま何も思い出せなくていいと思っているんです。」
「思い出せなくていいって…。」
「自分がどこでなにをしていた人間かわからないけれど、でも今は伊佐吉として毎日が積み重なっていく。これからもこうして伊佐吉として、日々を積み重ねていければいいと思うんです。」
「でも家族がいるんじゃないのかい?
このまま一人で生きていくのは心細いだろう?」
「そのことなんですけど…。
あの、おせいさん、私と家族になってもらえませんか?」
「え?家族って…。」
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