10人が本棚に入れています
本棚に追加
(おせいの家)
庭に咲いた桜の木の下で、おせいと伊佐吉が穏やかに話している。
「今年も桜が綺麗に咲いたね。」
「本当だね。
伊佐さんと出会って三度目、夫婦になってからは二度目だけれど、いつ見ても伊佐さんと見る桜は綺麗だ。」
「私もおせいさんと見る桜は本当に綺麗だと思う。
そうだ。
今日と明日はせっかく板場が休みだし、少しだけ遠出をしようか。
おせいさんは家に篭ってばっかりだし、たまにはどこかに出かけようよ。」
「いや、いいよ。
こんな私と外を歩いたら、伊佐さんまで変な目で見られる。」
「またそんなことを言って!
いつも言ってるじゃないか。他の誰になんと言われようと、私は気にしない。
私たちは夫婦なんだし、堂々としていればいいんだ。」
「伊佐さんが気にしなくても、私が気にするんだ。私のことはともかく、伊佐さんが悪く言われるのは嫌なんだ。」
「おせいさん!」
「本当にいいんだ。どこへも行かなくても。
伊佐さんと過ごせるだけで、私は十分なんだよ。」
「やれやれ。
おせいさんは言い出したら頑固だからな。
じゃあ、今日と明日はおせいさんがして欲しいことをなんでもするよ。
おせいさんがしたいこと、私にして欲しいこと、何でも言ってごらん。
どんなわがままでも全部聞くよ。」
「わがままって子どもじゃないんだから。」
「いいじゃないか、たまには甘えてくれても。
それとも私はそんなに頼りないかな。」
「そうは言ってないけれど…。」
最初のコメントを投稿しよう!