第三場

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《トントン》 ふと木戸口を叩く音がする。 「誰だろう。この家に人が訪ねてくるなんて。」 歩きかけたおせいを制して、伊佐吉が言う。 「あ、私が出よう。」 「いや、私が。」 「いいんだ。 今日は私がおせいさん甘やかすと決めたんだから。」 《トントン》 「はい、今開けます。どちら様…」 伊佐吉が木戸口を開けると、身なりのいい若い女と、下男らしき男が立っていた。 「新三郎さん!」 「え、あ、あの…」 「私です!やっと見つけました!探しましたのよ!」 「えっと…」 「ああ、そうでしたわね。今は記憶をなくしているとか。 三年も探して、やっとこちらの宿場にいるって分かって。 宿場の方では、記憶を無くして今はこちらで暮らしていると。 お一人で心細かったでしょう。こんな寂れた家に住んで。」 奥から様子を伺っていたおせいが、遠慮がちに声をかける。 「あの…」 「きゃあ!化け物!」 「そんな言い方はよしてください! 私の大事な妻です!」 「妻って、この醜い女が?! そんな、記憶を無くしている間にこんなにお辛い状況になっているなんて。」 「あの、あなたは私のことを知っているんですか?」 「知っているも何も、私たち夫婦じゃありませんか!」 「夫婦?!」
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