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「さっさと行きな、って言いたいところだけど、ただで帰るつもりかい?
三年も面倒を見てやったんだ。
それなりの礼ってもんがあるんじゃないのかい?」
「ほら!やっぱりこれが本性だったのね!
いいわ。いくら欲しいの?
言い値をお支払いするから、早くして!」
「そうだねぇ。二十両ってとこかね。
安いもんだろ?五体満足で帰してやろうってんだから。」
「本当に図々しい。
はい、ここに五両あるわ。手付と言うことで後から使いの者に残りを届けさせるから、それでいいでしょう?」
「は、五両とはしけてるね。
明日の朝までに残りを届けてくれるってんなら、今はこれでいい。
でも明日の朝までに届かなかったら、江戸は墨田の風月だっけ?そこまで取りに行かせて貰うよ。
こんな醜い顔の女が店に出入りして、客足が遠のいても知らないがね。
さあ、さっさと行きなよ。目障りだ。」
「おせいさん!」
「なんだい。金の話がつけば、あんたはもう用無しだよ。
二度とその口で私の名前を呼ばなくどくれ!」
「そんな…。」
「新三郎さん、分かったでしょ!
これがこの醜い女の本性なの!
こんな化け物といつまでも話していたら、私たちまで醜くなってしまうわ!
早く行きましょう!」
「だが…」
「大旦那様やお店が心配ではないの?
さ、さ。」
困惑する伊佐吉を、おときと下男が強引に連れ去る。
残されたのは、おせいただ一人。
「…行った、か。
よかったじゃないか、帰る場所が見つかって。
よかっただろう…?
これで…よかったんだ…。」
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