第四場

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おせいのただならぬ様子を察した伊佐吉は、無理やり戸を開け、おせいのそばまで駆け寄る。 「おせいさん!なんてことをしたんだ! 「伊佐さんは優しいから、いっときでも一緒にいた私を置いて行けないって言うだろう? 私がいたら帰れない。 なら、私がいなくなったら帰れる。」 「何を言うんだ、しっかりしてくれ! おせいさん!」 「泣いてくれるのかい?やっぱり伊佐さんは優しいね。 そんな優しい伊佐さんと暮らせたなんて、私は幸せ者だ。 こんな顔に生まれて、親には捨てられ、人には罵られ、生まれて来て良かったことなんて一つもなかったと思ってた。 でも伊佐さんと暮らした三年だけは幸せだった。きっとこの三年のために生まれて来たんだって、そう思えるくらい幸せだったんだ。 こんな幸せをもらったのに、私には何も返せるものがないから、ここで死んでいくことで許してくれるかい?」 「嫌だ、死なないでおくれよ、おせいさん!」 「…伊佐さん…人は生まれ変われるのかね… もし次に生まれ変わったら…私は桜になりたいよ…。」 「桜…」 「伊佐さんと出会ったのも桜の木の下だった…。 桜になったら、毎年伊佐さんに思い出して貰えるだろう…? 桜になったら、花びらとして自由に伊佐さんのところに行けるだろう…? ああ、でもこんなに醜い私が桜になれるわけないかねぇ…。 桜…綺麗だ…。 やっぱり伊佐さんと見る桜が…一番…綺麗…だ…。 桜…綺麗…だねぇ…。」 「おせいー!!」 ことさら強く吹いた風に揺られた桜の木の下で、こと切れたおせいを、伊佐吉はいつまでもいつまでも抱きしめ続けた。
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