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「え・・・。いや、外の世界と違うとは思っているけど、それをどうとかいうつもりはない。」
「あー。信じられない。啓介あんた緑里先生の話ちゃんと聞いてた?!」
「聞いてたよ!聞いてた上で言ってる。・・・というかまず、集落長が自殺かどうか、本当のところは分からないだろ」
「警察がそう言ったんだからそうなのよ。事実がどうであれ。・・・逆に自殺じゃないとしたらもっと問題よ。誰かに恨まれてたってことになる」
「突発的な犯人かもしれないだろ」
「もう分かんない。とにかく、私は一生この集落で閉鎖されて生きていくなんてほんと無理。絶対、進学を認めさせる、母さんとお兄ちゃんに。その為に、私は家出するから」
「は?」
「緑里先生の所に行く。その後はそれから考える」
「行くってったって・・・。そんなの」
「どうにかなるわよ。水野に行ったってことは分かってるんだから」
「お前、水野がどんだけ広いか分かって言ってるんだよな?」
「分かってるわよ。でも私は決めたの。祭りで集落が浮ついている今日が勝負。母さんとお兄ちゃんを困らせて、必ず進学を勝ち取る。あと・・・・もう一度、緑里先生に会いたいの」
緑里先生とは、3ヶ月前まで2人に勉強を教えていた専任教師のことだ。半年前にやってきて、たった3ヶ月で忽然といなくなった。今までもそんな専任教師は数多くいたが、緑里には他の教師とは決定的に違う部分があった。それは、奈由子と啓介に積極的に外の世界について教えようとしたことだった。それによって奈由子は外の世界を知り、自分の未来の為に、家出を決めたのだった。
「・・・・そうか」
「・・・じゃあね。」
奈由子は啓介にそう言うと、足早に集落の門を超えていった。
「おい!・・・死ぬなよ」
啓介のその言葉に奈由子は一度後ろを振り返り、すぐに翻し走って町がある方へ消えていった。
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