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その頃、メイン会場では由行が最後の挨拶をしていた。
「半年前、親父が自殺なんてしてしまって、みなさんには本当に心配をかけました。村のしきたりに従って半年、喪に服しました。でもみなさん!これから俺は頑張ります。親父の時代より、この住民25人の松葉集落をユートピアにして見せます。だから、ついてきて下さい、よろしくお願いします!」
「よっ!新集落長!湯来由行!」
集落民たちが精いっぱいの拍手を送る中、後ろの入り口から場違いなフォーマルスーツを着た男が入ってきた。場が拍手に包まれる様子を無表情で見ている。その時、会場の最前列の端で由行を見つめていた女性が騒ぎ始めた。
「・・・?奈由子?奈由子はどこ・・・!?」
場の拍手が止み、みんなが周りを見回すが奈由子は見当たらない。その声を聞いてフォーマルスーツの男は静かに外に出ていった。
「利律子さんの隣にいなかったか?」
「外に出てるんじゃないの?」
ざわざわしている間に、騒ぎ始めた女性の取り乱しが激しくなる。由行が壇上から降りて彼女を落ち着かせる。
「落ち着いて母さん。大丈夫、外にいるんだよきっと」
その女性は、前集落長婦人で由行・奈由子の母、湯来利律子(ゆき りつこ 45歳)だったのだ。孝由が自殺してからというもの、少しでも不安なことがあるとすぐに取り乱す、非常に不安定な精神状態になっている。そんな中、啓介が戻ってきた。
「啓介!お前、奈由子を見なかったか?」
由行は啓介に尋ねる。
「あいつは・・・。緑里先生に逢いに行ったよ。自分の夢を叶えるために」
「どういうことだ。行かせたのか・・!?お前、自分が何をしたのか分かってるのか!!」
由行は啓介を殴り、胸ぐらをつかむ。
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