0人が本棚に入れています
本棚に追加
「奈由子は・・・教師になりたいって。そうなるには大学に行かなきゃいけない。その為には高校に行かなきゃいけない。あいつは、覚悟決めたんだよ。奈由子が出ていったのは意味が分からない理屈でこんな小さな村に閉じ込めてるみんなのせいだよ、あいつは、由行さんと利律子さんが進学を認めてくれるまで帰らないと思う」
利律子はパニックに陥り、泣き始める。由行は仕方なく啓介から手を離し利律子をなんとかしようとする。啓介が集落民に取り囲まれている時、フォーマルスーツの男が戻ってきた。
「外にも、いないみたいですね。」
由行は利律子に寄り添いながら男に懇願する。
「高家さん。あいつはまだ15歳で・・・。何も知りません。だから、心配されるようなことは起こらないと思います。だから・・・お願いします。なんとか、あいつを探し出して、ここに戻してください・・・。お願いします」
その男は、松葉集落の取引先・風嶋興業の松葉集落担当・高家宏見(たかいえ ひろみ 35歳)だった。由行は高家が頷くのを見てパニック状態の利律子を連れて外に出た。他の住民もなんとなくそれについて行くように、会場内の人がまばらになった。そして高家は残っている住民たちに、なんとか探してみますのでと告げ会場を出た。啓介は自分の親に捕まる前に高家を追いかけた。
「高家さん!」
「・・・ああ。君か。」
「頼む。あいつが自分の目的を果たすまで、連れ戻さないでやってほしい」
啓介がそう頼むと高家は啓介を一瞥してこう言った。
「自分を犠牲にしてもあの子を守る覚悟がお前にあるのか」
啓介は高家の予想外の返答に一瞬戸惑うが、迷わず「ある」と答える。高家はそれを聞いて、「・・・自分を大事にしろ」と言って松葉集落を後にした。その直後、啓介は両親に捕まり、家に引きずり戻され、一晩中説教された。啓介には分からなかった。子どもがいなくなって、安否の心配より、高家に「心配することは起こらない」と言った由行の心の中が、15歳の啓介には分からなかった。
最初のコメントを投稿しよう!