花冷えの宵

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 久しぶりに会ったその姿が、あまりにも弱々しかったから。だから、たぶんそんな彼を見る私の瞳は、とても優しい色をしていたと思う。 「お話、聞かせてくれませんか?」  そう言って歩み寄った私を見る先生の顔は、あぁ、あの頃とは全然違って見える。  あの頃は、私から見た彼は大人(・・)だった。  周りと馴染めないのも、人が苦手なのも、自分が嫌いなのも、親が口(うるさ)いのも、全部周りのせいだったあの頃の私にとっては、いつも笑顔でキラキラしてて、私みたいなやつとも仲良くしてくれる仲西(なかにし)先生は、とてもいい人(・・・・・・)で、紛れもなく大人だった。  そんな先生のことを私は心の底から信じていたし、たぶん彼との関係も途中までは私自身が望んでいたものだった。  けれど、ある程度進展したところで彼の態度は変わってしまった。 『まだガキのくせにさ、思い上がってんの? お前は俺がいなきゃ駄目なんじゃないかよ、あぁ!?』  当時、確かに仲西先生はうまくいかないことがあったみたいだった。それにしたって、イライラしてるだとかストレスが溜まってるだとかいう言葉で片付けるにはあたりにも……。当時を思い出すのは、今でも恐ろしい。  それでも確かに、クラスでも浮いていて、家庭でも両親とうまくいっていなかった私にはいつの間にか先生しかいなくなっていて。  それに、会っているときの私の姿は、彼のカメラに収められていた。映像流出だとかそういうニュースを見て「そんな映像なんて撮らなきゃいいのに」と小馬鹿にしていた私も、同じ穴の(むじな)だったのかも知れない。  そっか、私もう今あの頃の先生より年上なんだ……。  ふと奇妙な感慨を抱きながら、私は先生の話を待った。ちょうどベンチの隣は空いている。  それに、時間もある。  幸いにして、ここは賑やかすぎる都心部には不似合いと言えるほど静かで、まるで忘れられたみたいな場所だしね。 「俺は、」  仲西先生が、唐突に口を開いた。 「俺は人を傷付けた。あの子の、助けになってあげなきゃいけなかったのに、なのに、俺は……!」  へぇ。  心の底から悔いているような彼の声に、私の心はざわついて。  小さな、忘れ去られた人気(ひとけ)のない公園。  手入れもされずに生い茂った木々を騒がせる風が耳障りで、思わず笑いが漏れた。
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