16人が本棚に入れています
本棚に追加
「え。来た」
「は?来るよ。当たり前じゃん」
なぜ当たり前?
あー。高野くんを待たなきゃいけないからか。
予想に反し、桜木くんは今日の放課後も、私と一緒に待ち人と化す予定らしい。
桜木くんはいつものようにスマートに席に座り、欠伸をしながら机に突っ伏した。
んん?今日はどうしたのだろう。...いや、いつも夜間のバイトに勤しんだのち、睡眠不足のまま登校を余儀なくされるため、体力は限界だろうから仕方がない。
いつもはたまたま私が先に睡魔に襲われるけれど、桜木くんが先に意識を手放してもおかしくない状況なのだ。
「眠すぎて死ぬ...」
むにゃむにゃと呟く桜木くんに、でしょうね。と冷めた言葉を言いそうになるも、なんとか口から飛び出さないように固く口を結んだ。
しばらくすると、スーという寝息を立て始めた。
その瞬間、最高に素敵な言葉を今日は聞けないのかと落胆する私。
あ!ならば私が桜木くんの耳元で、愛の言葉を囁きましょうとも!!と、意気込んで耳元に近づくとーーー。
「俺...」
「わっ」
寝言??微動だにしないけれども...。
「気配とか少しの物音でも起きちゃう特技もってるんだけど...」
桜木くんはようやく顔を上げ、不機嫌そうにそう訴えてきた。寝言ではなかった...。寝入ってたと思ったのにな。
少しの物音でも起きちゃうっていう特技のことだけど、自慢できるようなことではないような...。
「珍しいね。眠り姫が寝ずにゴソゴソしてるなんて」
「こんな希な日もあるのですよ...」
「なぜ棒読み...」
今日は私が”逆囁き”をしてみたかったという事実を告げる勇気はなかった。
私はおずおずといつもの席へと座り直した。
その時だったーーーー。
「姫、いつもその席座るよな。この席と交代しない?」
「えっ?...いや、ここはね、放課後の特等席だから譲れないよ」
何それ。意味不明だし、説得力にかけてんじゃん...。
「ここでもいいじゃん。一つ席が前後しただけじゃあんまり変わらなくない?」
「微妙な違いに気付くんですよーだ」
ますます厳しい......。
最初のコメントを投稿しよう!