ひとりの青年

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「ふ、ははっ。なーんてね、気分がいいからどっか行こ」 青年は立ち上がって財布をポケットにねじ込むと、外に出た。 外に出れば春の暖かな風が、青年を包む。 「そっかー、もう春かー……。桜、咲いてっかな?」 青年はポツリと言うと、自分の記憶を辿って桜の木を目指した。 「のど、渇いた」 青年はちょうど近くにある自販機に小銭を入れ、いつも通りコーラのボタンを押そうとして指を止めた。 「せっかくの花見だしなー」 青年は緑茶を買って再びフラフラと歩き出す。 「おー、あったあった。見事だねぇ」 歩道に1本だけ桜の木があり、見事に咲いていた。 「よいせ、と」 青年は桜の根元に座ると、緑茶を1口飲んだ。 「なんか買うんだったかなー?あ、そうだ」 青年はポケットからピンク色の薬を出すと空に、桜にかざした。 「ぴんくいろだー、桜もお薬も、おそろい」 青年はそう言って嬉しそうに笑うと、薬を緑茶で流し込んだ。 なんともいえないふわふわした幸せな気持ちになり、青年は目を閉じた。 しばらくそのままでいると、体に衝撃が走った。 目を開くと桜とガラス片、そして自分の血が舞っていた。
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