5 回さない風車

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5 回さない風車

俺が生まれた家は風を操る 風に音を乗せ匂いを乗せ季節を運び 暖かかったり寒かったり それが俺に宿る能力 風を感じるれるよう大人から渡されていたのが 病室で俺を笑わせるように使われていた風車だった 本来の風車の役割は 風を受けて回る 俺は風車を回さなかった あえて回さなかった 何でもそつなくこなすことは出来ていた 頭も悪くはなかった 大人の期待には答えていたつもりだ だが目立ちたくなかった 可もなく不可もなく そこが俺の落ち着く場所だったんだ ただひとつだけ 俺がやらなかったこと それが風車を回す事だった 少しだけの反抗 俺の風車は どんなに風を受けようと回らなかった すこしだけ回らないように 力を入れて止めていたから 走っては回りそうになると わざと力を抜いて 回らないようにしていた だから全力で走った事なんてなかった 回らないように 回らないように 回さない努力をしていた あいつと出会うまでは
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