一の侍女 あやめの話

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一の侍女 あやめの話

 さり……  女たちのすすり泣きはやまない。お部屋が少し暗くなった。  江の御方(ごうのおんかた)とわたしが出会ったのはもう二十年ほども前になる。  その頃、江の御方は一度目の結婚に失敗し、ご実父大江雅致(おおえまさむね)様のお屋敷に住まわれていた。  わたしは大江家の家司(けいし)の娘で、ご夫君の任国和泉国からひとりで戻っていらっしゃった江の御方にお仕えするように、と両親に言われ、右も左もわからぬ広くて暗い邸のなかを先輩の女房たちに言われるがままに追い使われていた。  夏になって幾日か過ぎ、築地(ついじ)の上に生えた草の緑も生き生きと茂り始めた頃。  この日も振り分け髪のわたしは命ぜられた用を果たすためにお屋敷のなかを走っていた。ところが――  築地(ついじ)の破れ目から白くて大きな手がおいでおいでをしている。あたりに誰かいるのかときょろきょろと見回してみたけれども誰もいない。躊躇(ためら)っていると 「そこの若鶏冠木(わかかえで)(表:淡青、裏:紅)の(あこめ)を着た幼い人、こちらへ」 爽やかな――本当に気分が晴れ晴れとするような――声が聞こえた。     
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