一の侍女 あやめの話

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さあ、どうしようかしら。と卯の花襲(うのはながさね)の薄物をやわやわと重ねて着た江の御方は文机(ふづくえ)に向かうでもなく、つと眼を(そら)に泳がせた。そして……  薫る()によそふるよりは時鳥(ほととぎす)聞かばや同じ声やしたると (香りになぞらえるなんて。お薫物(たきもの)は同じだとおっしゃるのかしら。風に乗ってくるわずかな匂いよりも亡き宮と似た声がするのかどうか。お会いして聞いてみたいものです) ゆるりとその薄紅色のふっくらとしたお口許から一息にお歌を吐き出された。わたしは眼を瞠った。  江の御方の唇から紡がれた言の葉とともに明滅する光がほろりほろりと(こぼ)れだすと、それはまるで蛍のように光りながら明かるみを目指して飛んでいき、明かるみの中に溶けるように消えていった。  わたしはふらふらと江の御方のほうへ歩み寄り、手を差し伸ばして消えていく美しい光をつかもうとした。 「おまえ、どうしたの」     
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