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「おはよう。」
いつもと変わらない顔で挨拶出来ているだろうか。
「お前、相変わらずだな。」
目を細めて笑うこの顔が好きだった。今はもう…彼女のものだ…。
「そう?高校生になって、少しは大人になったかと自負していたんだけど?」
いつもの私に戻ってタクミに悟られないよう本心を隠す。
大丈夫。演じ切れる。
「おお、そう言えば胸のあたりなんか…。」
「こら!!」
慌ててタクミの言葉を遮る。彼は「あはは。」と笑いながら私のチョップを軽々と避けた。
「もうっ!」と膨れる私の隣に戻ってきたタクミ。
唐突に話を切り出す。
「あ、そうそう。これ。」
そう言って差し出してきたのは、可愛くラッピングされた小さな箱。
「今日、ホワイトデーだろ。お袋がお前に渡しておけってうるさくて。」
「え?私あげてないよ?バレンタインデーに。」
変な誤解からさらに周りの視線が厳しくなるのを避けて、今年はチョコを渡すのをやめていたのだった。
「だよな。お前からチョコをもらえなかったの、今年が初めてだもんな。俺よりもお袋の方がショック受けててさ…。『もしかして、アンタよりもいい人ができて取られちゃったんじゃないの?』って俺に詰め寄ってくる始末でさ…。」
「別に良いでしょ、タクミは。バレンタインデーに他の女子からたくさんチョコもらってたじゃん。」
「あれは…義理チョコだな。後輩たちが気を使ってくれてるんだよ。」
「いやいや、思いっきり本命チョコでしょ。めっちゃ気合入ってる子たくさんいたよ?」
「うん…ま、そのあたり返事するのが大変でな…。」
「あー、そうだろうね。本命の彼女さんは怒ってなかった?」
私の言葉にタクミの表情が少し曇った。
「何言ってるの?お前?」
「通学路がかぶってるからね…。一度見かけたよ。」
私の言葉にタクミは考え込んでしまった。
「そっか…。」
タクミは、それから言葉数が少なくなった。
私もそれ以上詮索するのは好きじゃなかったから、話題を変えてお互い他愛もない話をしながら学校まで一緒に歩いて登校した。
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