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新たな門出の前に
県外で一人暮らしをすることになっていた私は家族とも、タクミとも本当に離れ離れになる日が近づいて、たった一人で新しい生活をしていく事に不安を覚えていた。
卒業が近づくにつれ、大きくなる不安は私を精神的に不安定にしていたようだ。
寝不足が続き、なかなか眠れない日々が続く。
2月に入れば学校に行く必要はなく、友人たちは自動車の免許を取ったり、バイトに勤しんだりしながら卒業の日を待つ。
私は、不安と闘いながらも4月からの新生活の準備をしていた。
そんなある日、タクミが自宅に訪ねてきた。
ウィークデーの両親が働きに出ている時間。
玄関の呼び鈴の音が響いたので、玄関先に出てみるとそこに立っていたのがタクミだった。
「どうしたの?」
私の問いかけにいつもの笑顔で「どうしてるかな?って思って。」と答える彼。
「どうもしてないけれど…まぁ、入る?」
私は彼が中に入れるようにドアを大きく開けた。
彼が私の部屋に入ってきたのは何年振りだろう。
「小学校の時以来だな。」
周りを見渡しながら、懐かしそうにタクミが感想を漏らす。
「そう?あれからずいぶん変わったんじゃないかな?それに今、引っ越しの準備もしてるから…。」
タクミは本棚の前に立って並べられた本を吟味しているようだった。
「うん、変わったところもあるけれど、小学校のころから変わってないところもある。」
「アンタは変わったよね。声とか身長とか。」
「あは、伸び盛りの育ちざかりだったからね。」
私がテーブルを用意して、そこにクッションを置くと彼は大人しく座った。
「お茶かなんか用意してくるから、本棚の本でも読んで過ごしてて、すぐに戻るから。」
そう言ってキッチンへと降りて行った私が、お茶とお菓子を用意して自分の部屋に戻った時、彼はさっきいた場所と変わらないまま座りこんでテーブルの上に一冊の本を広げていた。
「お待たせ。」
そう言って、彼にテーブルの上の本を片づけさせようとして私は大きな声をあげた。
「ば、馬鹿っ!何見てるのよ?」
へ?っていう顔をして、彼は何でもないように答えた。
「小学校の時の卒業アルバム。」
「見りゃわかるわよ!」
「いや、懐かしいなって思って。」
「アンタんちにも同じものがあるでしょ?見たきゃいくらでも見られるじゃない?なんでうちで私のアルバム広げてるのよ?」
私の抗議の声もヘラッとした笑いで軽く受け流すタクミ。
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