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青い空。
白い雲と、穏やかな日差し。
風は柔らかく、薄紅色に咲いた桜を撫でるように吹いている。
この季節が一番好きで、一番嫌い。
誰もが希望で溢れる季節に、一人だけ置いてきぼりを食らっているような気持ちになるのは、私の夢が一つ……蕾のまま枝から落ちてしまったから。
誰のせいでもないのに、誰かのせいにしてしまいたくなるのは、現実を受け入れられていないから。
そんな事は百も承知なのに、自分の不甲斐なさに深いため息をついた。
駅前の広場にある、大きな桜の木の下で肩を落としてベンチの背もたれにもたれかかった。
輝く笑顔、期待に満ちた瞳、各々が"新しい何か"を胸に抱き、足を前に進めている。
新幹線の発車ベルが鳴った。
午前8時30分。
私が乗るはずだった夢への列車は、私の存在すら知るよしもなく首都圏へと発車した。
「あーー、未練がましい……。きっぱり諦めないと」
立ち上がろうとした、その時……
「お姉ちゃん、何か諦めるの?」
突然話しかけられ、横を見ると五才くらいの小さな女の子が座っていた。
その無垢な瞳に、何故か胸を捕まれ再びベンチに腰を掛けてしまった。
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