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帰りはわざと遠回りしてあの道を使わずに帰宅した。昼間見えるものはそのほとんどが見えるだけで悪さをしてくるものは稀であった。
そんなことがあった夜に魔除けの毛布が使えないのである。
「えーっ、毛布乾いてないの、乾いてなくてもいいから、それ使うから持ってきて」
「バカ言わないの風邪ひいたらどうすんの、明日には乾くから今日一晩だけ我慢なさい」
吉田の必死の頼みも母には通用しない、いつもこうである。吉田が幻覚を見て怖がっていても何もしようとしない、それどころか世間体を気にして怒鳴りつける。
この頃から母が嫌いであった。夜遅くに帰って来て滅多に顔を会わさない父も同じである。
その夜は毛布無しで眠った。怖いので部屋の明かりをつけたままベッドに潜り込んだ。
深夜、寒さに目が覚めた。5月だというのに真冬のように寒く感じる。
「えっ、電気、そうか母さんが消したんだ」
寝惚け眼で寝返りを打つ、寒さで寝付けず横になりながら部屋を見回す。暗い部屋にだんだんと目が慣れてくる。
ベッドの端、足元に小さい黒い影が立っていた。気付くと同時に体が動かなくなる。金縛りだ。
指1本動かせないのに目だけは動く、その小さい影に釘付けだ。
『 おててが無いの、おててが無いの、お兄ちゃん一緒に探して 』
小さな影が抑揚は無いがハッキリした声で言った。
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