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「徹は勘の鋭い子じゃけん人の見えんものが見えると、ばあちゃも昔は見えとったんよ、今は見えんようになったけどの、見えるもんには良いもんと悪いもんがおる。悪いもんには今からばあちゃが教える呪文を唱えっとええ」
吉田徹が幼稚園に入ったばかりの頃、何かに怯え泣いていると祖母がよくこう言って頭を撫でてくれた。そして子供には難しい呪文を教えてくれた。
幼い吉田に呪文は難しくて覚えられなかったが最後の言葉は覚えているという、お経のように難しい呪文の後に祖母はこう付け足していた。
『わしゃなもできん、つくなわやなく、ほかつけ、おまとかんあるほかつけ』
幼い頃の吉田は幻覚を見るとその言葉だけを何度も唱えていた。
幼稚園年長組みに入った頃、大好きな祖母が病気で亡くなった。
祖母が亡くなる数日前、枕元に吉田をよぶと1枚の毛布を手渡してくれた。
「ばあちゃもうすぐ行くけん、徹心配せんでよかとこの毛布が徹を守ってくれるけん、変なもん見たらこの毛布に包まってっとよか、消えるまで毛布ん中おったらいいけん」
毛布を渡しながら祖母はそう言って笑った。
祖母の言った通りその毛布の効き目は抜群であった。
吉田は毎晩その毛布に包まって眠った。夜中に怖い幻覚を見ることが無くなったからである。
幾日かして祖母が亡くなった。
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