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部屋を出るときに哲也は見た。花瓶を置いてあった机の側面に赤黒い小さな手の跡みたいな物が付いていたのを......、確かめようとしたところ看護師が雑巾で拭いてしまった。
あれはたんなる染みだったのか今となっては分からない、哲也は何か言おうとしたが安心顔の恭子を見て止めた。
それから暫くは何も起こらなかった。恭子もおとなしく普通に生活していたのだが10日ほど経ってから大事件が起こった。
事の発端は男性看護師だ。あんなに仲のよかった彼が恭子を避けるようになったのである。そして事件の3日前、彼は磯山病院を辞めてしまった。
彼が辞めた日から連続して恭子は部屋で暴れた。錯乱状態で大の男が3人掛かりでやっと取り押さえられたほどである。
先生も普段は使わない強力な鎮静剤を2晩続けて使用した。
「彼はどこ? どこに居るの? 出てくるのよ、カエルが彼のが出てくるのよ」
錯乱状態の恭子が何度も辞めた看護師の名を叫ぶ、錯乱した様子を見ているのがいたたまれなくなって哲也は何も聞かずに部屋を出た。
そして次の夜、彼女が自身の腹を切って暴れているのを取り押さえることになる。
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