2人が本棚に入れています
本棚に追加
なんの感情も読み取れず、魚や烏賊の目のようで、人形とも違う恐怖があった。そいつが話した暗闇の黒い目は、こんな感じなのかもしれないと思った。
──帰り道、俺はふと廃屋に目をやった。そこには、いくつもの青い光がぽつりぽつりと浮いていた。家の中にじゃない、外にだ。
建物を取り囲むように青白い光がおぼろげに、遊んでいるみたいにふらふらと浮かんでいた。
俺は思わず引き気味に小さく叫びはあげたけれど、不思議と怖くは無かった。
いや違う。怖いという感情を押しつぶされているような、麻痺させられているような。水中にいるみたいにふわふわとしている。
あの青い光はなんなんだ。あの廃屋に何がある?
ふと、俺は気がついた。あいつは青い光とは言わず、青い炎と言ったことに──それに気付いたときには、俺はすでに廃屋の扉を開いていた。
暗闇のなか、青白い影が俺を手招きする。その後ろには、あいつがいた。
「なあ。なんでお前は選ばれたの?」
[さあ……。ただ、青い炎が選んだからだと言われたよ]
「そうか」
おまえも選ばれたんだよ。
そんな声が聞こえて、俺は深淵に墜ちた。
──今日も、誰かがあの家に足を踏み入れる。
誰が弾かれて、誰が選ばれるのか。それは誰にも解らない。
きっと、ゆらゆらと揺れるあの青い炎だけが知っている。
終
最初のコメントを投稿しよう!