陸の漁り火

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   近くに住んでるダチの言葉に、俺は缶コーヒーから口を離した。 「好きで入ったんじゃねえよ。甥を連れ戻してくれって頼まれて仕方なくさ」  親戚の甥が肝試しに入ったらしく、渋々連れ戻しに行ったらしい。噂になっていた連中の一人がこいつの甥だったとは驚きだ。 「大丈夫だったのか」  いくら信じていないとはいえ、あれだけ噂になっていれば気にならないわけはない。 「おれはなんともない」 「何も見なかったのか?」  そう尋ねると、ダチは引きつった顔をした。 「おい?」 「いや、実はな──」  甥を見つけて連れ戻そうと手を引き玄関にむかったとき、変な声が聞こえた。 「それに思わず振り返ったんだ」  そしたら── 「そしたら?」 「暗闇に、真っ黒い目があったんだ」  真っ暗闇のなかに、どうしてだか黒い目がぽっかり浮かんでた。 「変だろ? 何にも見えない闇の中に黒い目だなんて」  見えないはずの場所に目だけが見えたんだ。
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