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「彼、
どこかでストリートライブ
やってるはずよ。」
いつかの配信で、
場所はわからなかったけど、
外でライブをやっていたのを思い出した。
その時、珍しくしゃべる彼の言葉で、
「東北の人かな?」
と思ったのを覚えている。
「ありがとう。」
そうコメントを入れて、
彼女の配信を閉じた。
結局、
手掛かりらしいものはそれだけだった。
「東北か・・・」
私の住んでいる処からは随分と遠い。
それに、私が勝手にそう思っただけで、
本当に彼の訛が
その地方のものだったかどうかも
定かではない。
「そうだ、東北に行こう!」
とは単純には行かないのだ。
それに行ったところで、
名前も顔も知らない実物の彼を
どうやって探せると言うのだろうか?
「奈美ちゃん、コースター取って。」
マスターはそう言うと、
今入れたターキーのロックを
カウンターのお客の前に置いた。
年が明けて春になって、
私は京都の大学に進学した。
あれから、
彼の事はネット上で
暫く探していたけれども、
コテハンやアカウントを変えて
配信している様子もなく、
受験の追い込みに入って、
それどころじゃなくなった私は、
残念ながら追跡を断念していた。
けれども、
けして彼の事を忘れた訳ではなく、
大学生になった私が一番にした事と言えば、
大学の軽音サークルに入る事であったし、
そのツテで、
ライブハウスのアルバイトを得る事だった。
そうやって、バンド活動に近づいて居れば、
どこかで
彼に会う機会があるんじゃないか
と考えていた。
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