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「じゃ、知らないとは思うんですが、
私の一番好きな曲を・・・」
そう言って、
あれから耳コピーしてコードも取った
彼の曲を弾き始めた。
さびに来た時だった、
最近弾いてなかったからか、
うまくコードが押さえられない。
周りは金曜日の帰宅時間で、
段々と人が集まって来ていた。
人前で歌っているのを
それほど意識する事は
最近ではなくなって来ていたが、
急にそれを意識して頭が真っ白になった。
「忘れちゃったから、他の曲にしますね。」
いつもなら軽く言えたのに、
何故か言えない。
それまでの桜の歌が
あまりにもうまく行きすぎて、
周りが盛り上がっていたからだろうか?
「どうしよう・・・・・。」
切り替えることができずに
固まってしまった。
集まっていた人々はざわついたが、
通りすがりで聴いていただけの事だから
何も言わず去り始める。
滅多にこの人数が立ち止まって
聴いてくれる事も無いので、
残念な気持ちがして、
その後、たまらなく寂しくなった。
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