第1章

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「じゃ、知らないとは思うんですが、 私の一番好きな曲を・・・」 そう言って、 あれから耳コピーしてコードも取った 彼の曲を弾き始めた。    さびに来た時だった、 最近弾いてなかったからか、 うまくコードが押さえられない。 周りは金曜日の帰宅時間で、 段々と人が集まって来ていた。 人前で歌っているのを それほど意識する事は 最近ではなくなって来ていたが、 急にそれを意識して頭が真っ白になった。 「忘れちゃったから、他の曲にしますね。」 いつもなら軽く言えたのに、 何故か言えない。 それまでの桜の歌が あまりにもうまく行きすぎて、 周りが盛り上がっていたからだろうか? 「どうしよう・・・・・。」 切り替えることができずに 固まってしまった。 集まっていた人々はざわついたが、 通りすがりで聴いていただけの事だから 何も言わず去り始める。 滅多にこの人数が立ち止まって 聴いてくれる事も無いので、 残念な気持ちがして、 その後、たまらなく寂しくなった。
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