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「咲川さん。いつか、返事もらえますか?」
「必ず」
そう言うと幾分、柳瀬くんは安心したみたいでわたしから離れた。
「じゃあ、しばらくはライバルですか?」
「うん。なんか、ごめんね」
「でもちゃんと考えてくれるんですよね」
「もちろん」
笑顔で答えれば、柳瀬くんもレアな笑顔で答えてくれる。
「じゃあ場所取り完了してるから。後でみんなをここまで案内してくれる?」
「それはもちろんです」
「じゃあ、後でね」
これ以上引き止めてはいけないと、出来るだけ穏やかに柳瀬くんを送り出す。
彼もさすがに長居しすぎたと思ったのか、そそくさと戻る準備をする。
「じゃあ、咲川さん。後で」
「うん」
傘をさして去っていく柳瀬くんの背中を見ていた。
黒い傘に張り付く桜の花弁が綺麗。真っ黒だった心がピンク色に染まっていくみたい。
遠くなっていくその姿。あっという間に人に紛れて見えなくなってしまった。
「柳瀬くんが好きです」
桜が勝手に涙を流すから、わたしの本音も零れた。
桜の木の下。
今日あった出来事が霞んで消えてしまうのが怖いから。この美しい想いが上書きされたくないから。
花見なんてイベントが延期でありますように。今日ばかりは願わずにいられなかった。
END
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