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「むなしい」  頭上にある桜は綺麗で、雨から守ってくれるそれが優しくて、ずっと胸の中に溜めていたものが溢れてしまいそうだった。  大学に行けば仕事が出来るの?  短大に行ったら雑用しか任せてもらえない?  短大ってだけでそんなに馬鹿にされるなら、わたしは何のために通っていたの?  高卒だったら、若くてチヤホヤされて上司のお気に入りになれたの?  馬鹿みたい。  わたしはそんなふうになりたいから社会人になったわけじゃないのに。  安易に短大に決めるんじゃなかったって、今まさに後悔してる。 「あー、死にたい」  本気じゃない。でも、この気持ちがいつ本気になってしまうのか。真っ黒な感情に染まりそうで怖かった。 「大丈夫、ですか?」  降り続く雨の中。地面で跳ね返る水の音で、一瞬よくわからなかった。パサリと頭に落とされたタオルで、誰かがいたのだと気づく。 「咲川さん、大丈夫ですか?」  雨に掻き消えそうな声がやっと届いた。見上げれば、同じ部署にいる柳瀬大樹くんだった。  大学を卒業して彼も今年の新入社員なんだけど、この差の違いときたら……。
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